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福岡家庭裁判所小倉支部 昭和46年(少ハ)7号 決定

主文

本件申請を棄却する。

理由

(人吉農芸学院長の申請要旨)

本人は昭和四五年八月三日福岡家庭裁判所小倉支部において中等少年院送致の決定を受け、同月六日から当学院に収容されている者で、昭和四六年八月二日期間満了となるが、以下のとおり収容継続の必要がある。即ち本人の処遇経過は収容当日の昭和四五年八月六日二級の下に編入、その後同年一〇月一六日二級の上、昭和四六年一月一六日一級の下、同年五月一六日一級の上と順次進級してきているが、当学院における一級の上の処遇期間は三・五箇月であるので、同年九月上旬にならないと出院させられない。また本人は概して何事にも意欲がみられず、怠惰に過ごしてきた面が見受けられ、犯罪性の除去が十分ではないので、若干の保護観察期間を見込んでおく方が更生しやすいと考えられる。そこで少年院法一一条二項により本人の収容を四箇月間継続すべき旨申請する。

(当裁判所の判断)

調査審判の結果によれば本人の処遇に関しては以下のとおりである。

(1)  本人は申請要旨のとおり昭和四五年八月三日福岡家庭裁判所小倉支部において中等少年院送致の決定を受け、同年八月六日から人吉農芸学院に収容されている者であるが、少年院法一一条一項により昭和四六年八月二日に期間満了となる。

(2)  ところで上記学院における本人の処遇経過は、収容当日の昭和四五年八月六日二級の下に編入され、その後同年一〇月一六日二級の上、昭和四六年一月一六日一級の下、同年五月一六日一級の上と順次進級してきているが、これを上記学院の処遇段階に照らしてみると、一級の下に進級するまでは略順調に経過しているが、一級の下から一級の上に進級するのに一箇月遅れている。遅れた理由は、本人が昭和四六年二月中旬頃○田少年と帽子を交換したことを規律違反に問われて同年三月三〇日院長訓戒を受けたため〇・五箇月、同年四月の成績点が一四点で平均点の一五点に満たなかつたため〇・五箇月、それぞれ進級が遅れたからというのである。

しかし○田少年と帽子を交換したという件は、偶々横にあつた○田少年の帽子をみて今日一日交換してかぶつてみようかという気になり、そのことを○田少年に話しかけたところ、○田少年も同意したので交換してかぶつたというのであつて、本人としても軽い気持から思いつき交換したにすぎないもののようである。従つてこれが規律違反にあたることは否定し難いが、それ程悪質な規律違反だとは考えられない。また四月の成績点が不良だということは、要するに全体的にみて意欲に欠けているからということのようであるが、かかる傾向は四月に限らず収容当初から指摘されてきたところである。たしかに本人には上記学院に収容されて以来その言動に横柄な面があり、ひいては更生意欲にも欠け怠惰だとみられる点があつたことは事実であろう。しかし本人自身としては一応普通にやつてきたつもりであると思つているのであつて、本人の生い立ち、性格、環境などに照らせば、これは単なる弁解ではなく本人の真意だとみてもよいのではなかろうか。そうであれば問題は、本人としては普通だと思つている言動さえ第三者としては横柄、怠惰だと評する外ない程、本人の性格特性に偏りがあるということであろうか。しかしこのような偏りが特に四月に強く発現したといえるものかどうか、たとえば成績点が一五点だつた同年二月の行動と比較してみた場合、果してどちらの行動の方が不良だつたのか、必ずしも一概にはいえない面があるのではなかろうか。

(3)  もつとも上記のような本人の性格特性の偏りも、上記学院における教育によつて、徐々にではあるが、矯正されてきているといえるのかも知れない。しかし僅か一年間の収容によつて、これを完全に矯正するということは勿論至難なことであつて、更にその収容期間を数箇月延長してみたところで、その矯正効果に特段の進展を期待することも難しいといわざるを得ないところである。

(4)  なお本人が退院した場合の受入態勢としては、次兄M・Tが経営している土木請負業の事務を担当させる予定で、担当者が欠員になつているのをそのまま空けて待つている状況にある。また長兄M・K、姉婿M・Rらも本人の近所に住んでいるので、今後は父親に協力してその指導監督にあたることを誓つている。

以上のとおりであるから、上記学院長から申請のあつたように、本人が上記学院における処遇段階に従つて終了するには満期後なお一箇月の期間が必要であり、また横柄、怠惰だとみられる性格がまだ残存していることは、当裁判所もこれを否定する訳ではない。しかし収容継続というものはあくまでも少年院における処遇上の例外であること明らかであり、例外はやはり厳格に解釈しなければならない。本件の場合、一級の上に進級するのが遅れた経緯に徴すれば、本人をどうしても一級の上に三・五箇月おかなければ、退院させるのに不適当であるとまではいい難いのではなかろうか。また横柄、怠惰だとみられる性格の矯正にしても、もともと一年間の収容によつてそれ程の矯正効果を期待し得る筈のものでもないのであるから、かかる性格の矯正が十分でないからといつて、ただちに退院させるのに不適当であるといえるのであろうか、若しそのようにいえるとなれば、ほとんどすべての事案について収容継続することとなり、これでは例外であるべき収容継続が原則のようになつてしまうのではなかろうか。当裁判所は、すでに成人に達している本人の処遇としては、原則にたちかえり、成人としての自覚と責任のもとに自立的更生を期待すべきであろうと考える(もつともその場合、他の院生に対してこれといつた事故さえやらなければ少々だらけても一年で退院できるのだという気持を起こさせ、その処遇上支障を生じる懸念がないではない。しかし本件本人としては別にだらけているという気持は持つていないようであるから、逆に普通にやつていてもどうせ収容継続されるのだということで、あるいはなげやりにならないとも限らない。従つて本件本人に対する個別処遇のうえで、上記のような懸念を余りに強調して収容継続を認めるのは、やはり躊躇せざるを得ない)。

なお退院後の受入態勢については、上記のとおり一応整つているのであるから、本人の更生上仮退院後の保護観察がどうしても必要だという程の積極的な理由は見出せない。従つて仮退院後の保護観察期間を見込んだ収容継続も認め難いこと勿論である。

よつて本件申請を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 永松昭次郎)

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